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大阪高等裁判所 平成2年(ネ)43号 判決 1991年4月26日

控訴人 内藤和雄

右訴訟代理人弁護士 西中務

被控訴人 社会福祉法人昭和学園

右代表者理事 小山雅央

右訴訟代理人弁護士 山崎吉恭

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し金二三一万円及びこれに対する平成元年五月二五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二主張

当事者双方の主張は次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表一三行目末尾に改行して次のとおり付加する。

「4 また、仮に、本件各手形の振出につき民法一一二条が類推適用されないとしても、商法二六二条が類推適用される。けだし、控訴人が本件各手形の割引を鷲尾から依頼された時に、被控訴人は鷲尾が依然として理事長として振舞うことを容認しており、同人が被控訴人の理事長であると信頼される外観が揃っていたから、それを信頼した控訴人や本件各手形の受取人である東條敏夫及び日本装美株式会社に対し責任を負うべきだからである。」

二  同三枚目裏一行目の「4」を「5」と訂正する。

三  同四枚目裏三行目の末尾に改行して次のとおり付加する。

「4 請求原因4は争う。

三 抗弁

前記二3で述べたとおり、鷲尾による本件各手形の振出について民法一一二条の表見代理は類推適用されないが、仮に類推適用されるとしても、本件各手形の受取人である東條敏夫及び日本装美株式会社並びに控訴人は鷲尾が被控訴人を代表する権限がないことを知らなかったことについて過失があった。すなわち、被控訴人は昭和六〇年四月一七日鷲尾が代表者を辞任した旨の登記をしたが、登記簿は公開されているので登記簿を調査すれば何人も鷲尾が代表者を辞任したことを知ることができ、また本件各手形の手形用紙が昭和六〇年一二月一六日に京都信用金庫枚方支店から鷲尾に交付され、鷲尾が同日以後に本件各手形を振り出したから、本件各手形の受取人である東條敏夫及び日本装美株式会社並びに控訴人が本件各手形を割引く際に登記簿を調査すれば、被控訴人の代表者が鷲尾でないことを知ることができ、このことを知らなかったことについて過失がある。

四  抗弁に対する認否

抗弁は争う。」

第三証拠《省略》

理由

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目表四行目の「第二号証、」の次に「乙」を付加する。

2  同六枚目表四行目の「できないとする」から同裏七行目末尾までを次のとおり、訂正する。

「できない旨規定しているが、右規定自体から直ちに同法上の法人の理事につき辞任の登記がされれば、いかなる場合においても表見代理の規定の類推適用が排除されると解さなければならないということはない。けだし、一般私人の場合に比し、取引活動が大量的・反復的に行われる商人の場合には、これに利害関係をもつ第三者も不特定多数の広い範囲に及ぶことから商人と第三者の利害の調整を図るためには商法一二条の規定のみが適用され、別に民法一一二条を適用ないし類推適用する余地はないけれども、社会福祉事業法に基づき設立された社会福祉法人の場合にはそのような要請が少なく、個別の事情により第三者との利害の調整を図ることが可能であり、またその必要がある。

そこで、控訴人が主張する表見代理の成否について検討するに、前記二で認定した事実のほか《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

1 控訴人は昭和五八年頃知人の花井真光を介して鷲尾と知合い、その後間もなく鷲尾が住職をしていた光照寺で同人からその都度の事情で資金繰りに窮したとして手形の割引を依頼され、爾来昭和六一年初め頃までに手形約二〇通、小切手約一〇通で合計二〇〇〇万円を割引いていること、

2 控訴人は、当初本件各手形と同一の記名押印のある約束手形を受取った際、銀行へ照会したり、登記簿を調査して鷲尾が被控訴人の代表者であることを確認したが、その後はそのような確認をしていないこと、

3  鷲尾は被控訴人の理事でその代表者であったが、昭和六〇年四月七日に理事を辞任して代表権も喪失し同月一七日その旨の登記がされたこと、

4  小山雅央は昭和六〇年四月七日に就任して同月一七日にその旨の登記がなされて以来現在まで被控訴人の理事でその代表者であること、

5  鷲尾は被控訴人の理事を辞任した後である昭和六〇年一二月一六日に京都信用金庫枚方支店から手形用紙五〇枚の交付を受け、本件各手形などを振り出したこと、

右各事実が認められる。右各事実によれば、控訴人並びに本件各手形の受取人である東條敏夫及び日本装美株式会社は被控訴人との間の継続的取引関係に基づいて本件各手形を取得したわけではなく、鷲尾が資金繰に困った際にその都度控訴人に依頼して手形割引の方法で資金を入手するために振出した本件各手形を取得したもので、その時期は鷲尾が被控訴人の理事を辞任してから少なくとも八か月後であったから、右控訴人らにおいて、その間に登記簿を調査して控訴人の右代表権喪失の事実を確認することは十分に可能であり、容易でもあったのであるから、本件各手形の受取人である東條敏夫及び日本装美株式会社並びに控訴人は鷲尾に本件各手形の各振出当時被控訴人を代表する権限がなかったことを知らなかったことについて過失があったというべきである。もっとも、前記証拠によると、控訴人は鷲尾から依頼され、振出人が被控訴人名義で支払期日が昭和六〇年一一月二〇日及び昭和六一年二月二〇日の約束手形二通の割引をし、支払期日に決済されている事実が認められるが、他方、右二通の手形は本件各手形の手形用紙とは異なる手形用紙であることも認められるので、右二通の手形が本件各手形と必ずしも同時期のものであるかどうかについて疑問があり、右手形決済の事実をもって控訴人の右主張を裏付けるものとみることはできない。結局民法一一二条を類推適用して被控訴人の表見代理責任を追及することはできないとするのが相当である。

四  次に控訴人は被控訴人が本件各手形の振出につき商法二六二条の類推適用による表見代理の責任を負うべきである旨主張するが、被控訴人が鷲尾に対し辞任した後も理事長として振舞うことを容認していたことを認めるに足る証拠はなく、控訴人の主張は理由がない。」

二 そうすると、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものであるところ、これと同旨の原判決は正当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田秀文 裁判官井上清は退官のため、裁判官佐野正幸は転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官 吉田秀文)

<以下省略>

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